Forbes Cloud 100は、クラウド技術を活用してイノベーションを実現している有望な未上場企業をリストアップするもの。その選考は、フォーブスとベンチャーキャピタルのベッセマー・ベンチャー・パートナーズ、セールスフォース・ベンチャーズが共同して厳格に行われている。数百社に及ぶクラウド企業から集まった応募は、既に上場しているクラウド企業の40名以上のCEOによるレビューを受け、スコアリングされる。評価の際には、「市場リーダーシップ(35%)」「評価額(30%)」「オペレーションメトリックス(20%)」「企業文化(15%)」の4つの指標が用いられるという。
今年の全100社(https://www.forbes.com/cloud100/)から、まずは各社の所在地を見てみよう。「Tech企業といえばシリコンバレー」というイメージがあるが、実際そのとおりで、2019年でもクラウド100に選ばれた企業のうち半数近くの43社がシリコンバレー周辺に本社を構えている。それに次いで多いのはニューヨーク周辺で17社が集まっており、さらにボストン周辺にも7社が居を構えている。引き続きシリコンバレーの強みは変わらないが、さまざまなツールの活用などにより、シリコンバレーである必然性は下がりつつあるのではないだろうか。そうなると、起業の場所としてアメリカ東海岸の大都市が選択されることも増えるだろう。
一方アメリカ以外に本社がある企業を探すと、データマネジメントのVeeam(スイス)、クラウドベースのヘルスケアサービスのPointClickCare(カナダ)、デザインツールを手がけるCanva(オーストラリア)、そしてチームマネジメントのmonday.com(イスラエル)の4社が挙げられる。過去のクラウド100では、イギリス、オランダ、インドなどの企業もランク入りしていている。アメリカ以外に本社がある企業の割合は、例年と大きく変わっていない。
気になるのは中国の企業がまったく見当たらないことだ。現在のアメリカ政権が中国と経済的に対立していることや、中国企業の経営が全般的に不透明であったり、中国共産党とのつながりが懸念されたりという状況下では、中国発ベンチャーはクラウド100の対象にはならないのかもしれない。
また、決まった本社を構えていない(Fully Remote)企業がある点も興味深い。今回のリストで「Fully Remote」とされている企業は、DevOpsやGitツールのGitLab、WordPressを開発しているAutomattic、Webアプリ統合を手がけるZapierの3社だ。こういう形態をとる企業は今後増加していくだろう。
クラウド100の上位にはどのような分野からどのような会社が選ばれているのだろうか。今年1位に選出されたStripeはオンライン決済を手がけており、2017年から3年連続の1位と安定した評価を受けている。一方2~5位にランクされた会社は、2018年には17、14、32、19位と評価されており、いずれも大きく評価を伸ばしてきた。トップ5の業種は、オンライン決済、データウェアハウス(DWH)、RPA、クラウドインフラ自動化、データモニタリング・解析と多岐にわたっている。
2019年に選ばれた全100社のうち、2018から継続して選ばれている企業は69社で、残りの31社がニューカマーということになる。では入れ替わりにリストから消えた31の会社は業績が芳しくなかったのかというと、そういうことではない。なぜならクラウド100は未公開の企業を対象としたランキングであり、昨年のクラウド100以降にIPO(株式の新規公開)を実現した13社は自動的に対象外となる。例えば2018年に2位だったSlack(メッセージングプラットフォーム)、3位だったZoom Video Communications(動画によるコミュニケーション)はいずれも公開企業となった。さらに、他の企業による買収を受けた会社もある。
IPOを達成して公開企業になることも、より規模が大きくて相補的な業務内容の会社に買収されることも、新興企業にとってはポジティブな「ゴール」である。つまり、2018年にクラウド100に選出された企業の6社に1社がゴールに到達しているというわけだ。これはけっこうな高打率といっていいだろう。さらに上位20社に絞ってみれば、実に20社のうち10社がIPOまたは買収を受けている。クラウド100の指標が「これから伸びる」企業をかなり的確に当てていることになる。
IPOや買収ではなく、2019年にクラウド100から外れた会社に関しても、調べた限りでは倒産などの情報は得られなかった。つまりこれらの会社は堅実に努力を続けているものの、クラウド100に選ばれるためのハードルが上昇した結果、ランキングから外れたのであろう。実際、クラウド100が最初に発表された2016年には、全社の平均評価額は約10億ドルだったのに対し、2019年には約17億ドルに達しているという。競争の激しさが伺えるというものだ。
2019年に新たにクラウド100へ選出された31社(前述)の属する業界を見れば、今、そしてこれから先に盛り上がるであろう業種も見えてくるだろう。その視点で31社を眺めてみたが、「Data analytics」「Data management」というようにDataを扱うことを謳っている会社が多少目立つくらいで、それ以外はDevOps、セキュリティ、認証、マーケティング、eコマース、教育、金融、IoT……と非常に広範囲に及んでいる。不動産業向けソフトウェアを手がけている企業まであるほどで、クラウドコンピューティングを活用したイノベーションは産業の全分野・業種に起きているといっていいだろう。
2010年代前半に「ビッグデータ」という言葉が使われ始めて、これまで注目されていなかったデータの活用方法について、各社が知恵を絞り続けて現在に至っている。その流れからすればData analytics、Data managementを謳う会社はこれからも登場してくることだろう。
クラウド100の2019年版を見て感じたことは、デジタルトランスフォーメーション、クラウドの活用といった言葉に「うち(の業種)は関係ない」といえる企業・業種はないということだ。アメリカで起きたことが数年後に日本でも起きるのは、これまでに何度も経験してきたことだ。近い将来、必ずある黒船の襲来に慌てないために、日本企業のデジタルトランスフォーメーションが急がれる。